鍵井靖章のかながわ海中紀行
神奈川の海・・・。

そう聞いて思い起こすのは、
「サーフィン」や「江の島」、「しらす」などなど・・・。
しかし、「海の中」についてはどれだけ知っているでしょう。
このたび、神奈川県在住の水中写真家の鍵井靖章さんが、
tvkウェブサイトにてその作品を展示する運びとなりました。
自ら神奈川の海を潜り、その知られざる”世界”を紹介します。

バックナンバー 1〜10,11〜20,21〜30,31〜40

鍵井靖章鍵井靖章
1971年兵庫県生まれ。鎌倉市在住。 大学在学中に水中写真家・伊藤勝敏氏に師事し、水中写真を志す。オーストラリア、伊豆、モルディブでダイビングガイドを行う傍ら、水中撮影に励む。1998年、モルディブより帰国後、フリーランスフォトグラファーとして独立。現在は水中のあらゆる事象を精力的に撮影し、プランクトンからクジラまで、独特の世界観で水中の世界を写し撮る。2008年にイギリスで大型写真集「DEEP BLUE」を出版する。受賞歴、テレビ、ラジオ出演など多数。 公式サイト

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1.鎌倉・湘南の海へ

鎌倉・湘南の海を綺麗な海だと思っている人は少ないはず。
私も間違いなくそのうちの一人だった。

しかし、子供が生まれ、都内から鎌倉に移り住むようになり、
自分が暮らし始めた海に興味を持つようになった。
幸運にも私の仕事は水中カメラマン・・・・(笑)。
せっかく海の近くに住んでいるのだから、
いつもそばにあり、何気なく眺めている日常の海を
記録し続けることは大切なことではないか?と思い始めた。

実際、初めて葉山の海で潜ってみたときは、
あまりの透明度の悪さに心底、驚いた。
しかし、それにもめげず、まずは葉山の海を
ホームグランドとして鎌倉・湘南の海を潜り始めた。

すると、季節によって変化する様々な海の素顔と
たくましい海の仲間たちに出会えるようになった。

text:鍵井靖章

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2.初めてのウミウシ

初めて海に潜ったときの感動を思い起こしてくれる生き物がいます。
それはアオウミウシという小さな生き物です。
皆さんは、「ウミウシ」って、ご存知ですか?巻貝の仲間なのですが、進化の途中で貝殻を脱ぎ捨てた不思議な生き物なのです(ちょっとナメクジにも似ています・・・)。

私は海に初めて潜ったときに、海底で見つけた小指ほどの大きさのアオウミウシを見て、「なんなんだ!このキャンディーのような可憐な生き物は!?」と、とても驚きました。

恥ずかしい話、水中カメラマンになりたくて、ダイビングを始めたのに、ウミウシの存在さえも知りませんでした・・・。

アオウミウシとの初めて出会いは、見知らぬ世界を覗いたようで、好奇心がとてもくすぐられました。もしかすると水中カメラマンになるきっかけとなった生き物かもしれません。

鎌倉、湘南、葉山の海を初め、日本の海の海岸線でもウミウシに会えます。ちょうど潮が引き、岩礁がタイドプール(潮だまり)になったときに、散歩してみてください。

海の宝石のように、鮮やかな色のウミウシにきっと会えますよ。

text:鍵井靖章

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3.自宅から見える海の下

鎌倉山の裾野にある自宅のウッドデッキから少しだけ海を眺めることができる。

今年の2月に片瀬海岸にあるダイビングショップの方と知り合い、早速、鎌倉沖でのダイビングを行った。腰越の漁港から出発して、鎌倉方向にボートを走らせる。到着したのは、ちょうど七里ヶ浜と稲村ヶ崎の沖合いだった。

ガイドのはらださんが、潜るポイントを見つけるのに、鎌倉山の裾野にある大きな建造物を目安に山立をしていた。

海から眺める七里ヶ浜と稲村ヶ崎の見慣れない海岸線の風景の中に、ポツンと山際にそびえる見覚えのある大きな構造物・・・なんと、それは私の自宅の並びにある構造物だった。

その日、私はいつもウッドデッキから眺めている<>小さく見える海>の下に潜る幸運に恵まれた。

海の中は、想像以上に素晴らしかった。サーファーやヨット、海水浴客で賑わう湘南の海岸線や洋上とはまたまったく違う世界が広がっていた。どちらかと言うと、人の匂いを感じさせない<原始の無垢な海>のような雰囲気があった。ダイバーの数がまだ、限られていること、いつも潮流に洗われていることなどが理由に挙げられると思う。

特に、トゲトサカやヤギと呼ばれる軟らかいサンゴの仲間が作り出す海の庭園は、これまで経験した世界中の海のなかでもトップクラスに入る美しさだった。

鎌倉沖にこんな素敵な海底世界が広がっていることをみんなに伝えていきたい。それが、私が鎌倉に住む理由のひとつとなった(笑)

text:鍵井靖章

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4.海の花火

明日(7月21日)は鎌倉花火大会。
撮影取材で家を開けることの多い私は、このような季節の行事には、あまり縁がないといつも諦め調子だが、明日は外出の予定がない。今から楽しみだ。 数年前、関西から母と小学生の従兄弟が夏休みを利用して、我が家に遊びに来ていた。 典型的な夏の夜で、バーン!バーン!と花火が打ち上がる音を遠くに聞きながら、賑やかな食卓を囲んでいた。花火大会を少し意識しながらも、「もう今から行っても人混みに疲れるだけ」と、遠い世界のことのように捉えていた。

何発目かのドーン!いう爆発音に誘われて、窓の外に目をやると、遠景の夜空に真っ赤な大輪が咲いているのが見えた。 音だけの遠い世界から<花火の絵葉書>が、我が家に投函された。

「うぁー」と、みんなでウッドデッキに走り出た。1発だけの幸運だったのかもしれないと思いながら、水平線に近い夜空を眺めた。程なく、ドーンという音にズレて、後続の花火も輝き始めた。

夏の夜空を彩る花火が好き。そして、それと同じくらい、一緒に見る家族や友人たちの嬉しそうな横顔が好き。花火を見上げる夜は、シンプルに幸せな気持ちに包まれる。

私は海の中で、色んなシチュエーションを思い浮かべながら撮影するクセ?がある(笑)。今回の3枚の写真も<ウミウシが花火を眺めている様子>、<海に咲く大輪の花火>、<夜空で遊ぶ星の子供たち>などと勝手な想像を膨らませながら撮影を進めていた。

花火大会の夜、海の生き物たちは、どんな気持ちで花火を見上げているのだろう。 きっと、「お願いだから、静かにしてくれよ〜」と寝言交じりでつぶやいているのだと思う。(笑)

text:鍵井靖章

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5.新しい命で溢れる海へ

私がホームグランドにしている葉山の海。ダイビングを行うのは芝崎海岸というエリアで岩礁海岸になっている。7月の最終週に、夏の海中の様子を観察&撮影がしたくて、朝早くからダイビングに出掛けた。いつも一緒に潜ってもらうガイドさんは、葉山NANAの佐藤輝さん。葉山で潜水するときは、いつも彼を頼りにし撮影を行っている。
約2ヶ月ぶりの潜水だったが、海の中の様子が大きく変化していた。それは、梅雨が終わり、夏の輝きが一挙に湘南の海岸線を包む感じに似ていた。はっきりとした季節の移り変わりを海のなかでも感じることができた。

夏の本番を迎えようとする7月下旬の海はとても活性化していた。生き物たちの新しい生命が海いっぱいに溢れていた。

まず、海底でサザエの殻に住んでいるニジギンポを見つけた。覗き込んでみると奥に小さなオレンジ色の卵がたくさん産みつけられていた。6月〜9月の産卵期になると、オス同士の闘争が見られるようになる。互いに向き合い、体を小刻みに震わせ、口と口とで噛み合う。決着までその状態が続く場合もある。闘争に勝ったオスは、メスと産卵行動にうつる。産卵床に利用されるのは、サザエやフジツボ、最近では空き缶の中などもある。卵が産み付けられると孵化まで、オスが離れず、周囲から卵を守る。普段はかわいい顔の温厚なお魚だが、卵に近づき過ぎると、たまに威嚇し、噛み付いてくることもある。

ネンブツダイの口内保育もたくさん見ることができた。口内保育は、メスが産んだ卵塊をオスが口の中で守り、育てるというもの。オスは8日間、何も食べずに卵を守り、孵化し、稚魚を水中に旅立たる。そして、その後、エサをたくさん食べて体力が回復すると、また次の卵塊をくわえる。産卵期のあいだは、その行為が何度も繰り返されるそうだ。

また、スズメダイの産卵床を数箇所で見つけることができた。卵は岩肌にびっしりと産み付けられている。スズメダイの場合も産卵後は、オスが床に残り、卵に新鮮な水を送ったり、卵の上のゴミを取り除いたり、卵を狙う外敵を追い払ったりして卵を守っている。透けたビーズ大の卵を良く見ると、もう稚魚の目などをはっきりと確認することができた。旅立ちの時期はもう間もなくだ。

厳しい自然のなかで、メスは命懸けで、産卵を行い、その卵をオスが守る。クマノミなどのスズメダイ科やモンガラカワハギ科のオスたちは、不用意に卵に近づいてしまうと、体の大きさが何倍もある私たちに全身で体当たりを繰り返す。その勢いに圧倒され、自然の中で生きていく覚悟や強さを教えてもらう。
オスとして彼らに負けずに生きていこう(笑)

text:鍵井靖章

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6.初めてのタイドプール

今年の夏、息子・りうた(5歳)と娘・りりこ(3歳)へ海中マスクとスノーケルをプレゼントした。3歳の娘には、少し早いかな?とも思ったが、とにかく、1セット買ってみた。

そして、私がいつもダイビングを行っている葉山の芝崎海岸へ向かった。ここは干潮になると、水位が低くなり、岩のくぼみに海水が溜まる形であちこちに大小様々なタイドプール(潮だまり)ができる。実は、タイドプールには色んな生き物が棲んでいて、ダイビングなどの大掛かりな装備をしなくても、気軽に海洋生物を観察することができる。タイドプールの水深も様々で、20cmくらいのものから1mくらいのものまである。海水に入らなくも水面下を覗けば、ウミウシや貝、ヒトデの仲間などを見つけることができる。また閉鎖された環境なので、波や潮流の影響もなく、子供たちでも水遊びのような感覚で海に親しむこともできる(自然のなかで遊んでいるという認識は必要)。

膝下くらいの水深のタイドプールで、マスクをつけて、スノーケルでの呼吸を始める。水底に腹ばいになって海中を覗き込む。最初は、何にもいないように見えるが、じっとしていると、色んなものが見えてくる。きっと私たちが、海の入った瞬間に生き物たちも、驚いて身を隠しているはず。ゆっくりと呼吸し、落ち着いて周りの景色を見ていくと、岩の下やくぼみにギンポやハゼの仲間がたくさんいることに気が付く。水底の転石などひっくり返さないように、手を使って前にゆっくり進んでいく。すると飴玉のような鮮やかな色をしたアオウミウシや黄色い体色が印象的なナベカなど、個性的な生き物がどんどん目に入ってくる。視線を感じて、ふっと横を向くと、ひょうきんな顔をしたコケギンポが岩の穴から顔を出し、大きな瞳でこちらの様子を伺っている。心の中で「お邪魔しま〜す!」と声を掛けて、前を横切る。

ガラス細工のようなイソスジエビを見つけた。指を近づけてみると、指先に乗ってクリーニングをしてくれた。これはお魚の体についた寄生虫などを掃除する共生行為。そんなに汚れているのかな?自分の手を見つめながらも、自然の生き物との触れ合いに感謝した。

子供たちも本当に楽しんでいる。息子のりうたは積極的に海の中を観察し、見つけた生き物を私に教えてくれる。タイドプールで私が生き物を教えたのは、ほんの最初だけだったような気がする。人に教えてもらった生き物を見るのも楽しいが、自分で見つけ、発見した時の感動は、その何十倍も何百倍にもなる。娘のりりこも浮き輪を付けたまま、マスクとスノーケルを着け、必死に海中を覗いている。

私たち家族は、このようなスタイルを求めて、鎌倉に移り住んだことを再確認した。この夏、水深30cmの世界は、自然の面白さ、多様な生き物の存在、生命の不思議と繋がりを私たちに教えてくれた。

text:鍵井靖章

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7.シュノーケリング&水中スナップ体験ワークショップ

先日、お世話になっている「鎌倉ツリープ」さんの企画で、シュノーケリング&水中スナップ体験ワークショップを開催して頂いた。舞台は、葉山一色海岸。当日はお天気にも恵まれ、素敵な夏日となった。参加者のなかには、男子中学生から写真家の方もいらっしゃって、とても楽しい1日となりました。

最初は、マスク、スノーケルの使い方から始まり、浅瀬の生き物からの観察、そしてスナップ撮影となりました。初めてお会いした方と海に行くというのは、かなり興味深い体験でした。参加者の方に、海のなかで生き物を紹介するときは、自分が海中で撮影しているときの気持ちにどこか似ていました。「誰かに、何か伝えたい」という思いの変形型だったのだと思います。また、私は海のなかで、「こっちから見て!」とか、「この角度から!」などと、たまにゲストの手を引き、生き物を紹介していました。同じ生き物でも、環境や光の様子によって印象が異なります。できるだけ、私が海の生き物を撮影するときのアングルから見てもらおうとしていたのだと思います。
そして、お魚のかくれんぼを見つけて、「この擬態すごいでしょう?」とか、「バレてますけどね!」などと観察したり、可笑しな顔のお魚を見ては「この表情、近所のおっちゃんやおばちゃんに似てるでしょう?」という思いを込めて、紹介もしました。海の遊び方、楽しみ方は広大無辺です。

みんなで一緒に海に入っていると、その場の感動をすぐに共有することができました。実際に海に入って同じ生き物たちや、その命を見つめることは、人と人との距離を近づけてくれるように思えました。海から上がってきた後、潮風と同じくらいその感覚が気持ちよかったです。

text:鍵井靖章

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8.「季節来遊魚」に恋する

海中にプランクトンが増え、透明度が悪くなる夏の海。R134から湘南の海岸線を眺めていても海の色の変化を簡単に知ることができる。そんな夏の時期に、ダイビングは適していないように思われるが、実は南の島からの黒潮の恩恵を受けて、海中では可愛くて、素敵な出会いに恵まれる。

黒潮は6〜8月にかけて日本列島に接岸する。その流れに乗って、本来ならば、東シナ海の熱帯地域に生息する魚たちが相模湾や駿河湾まで運ばれてくる。今年の夏、葉山、鎌倉の海でよくご対面したのは、チョウチョウウオやミナミハコフグの幼魚、また、葉っぱに擬態したような不思議な姿態のカミソリウオなどだった。

彼らは「季節来遊魚」と呼ばれ、夏の海中の風物詩になっている。サンゴ礁のない岩礁や砂地の海底で出会う南方系のリーフフィッシュは、まるで宝石のようにキラキラと輝いている。そして、私たちの身近な海と南国の海が、ちゃんと繋がっていることも教えてくれる。

岩陰で遊ぶ小さな彼らを眺めていると、生まれた南の海から、いったいどんな旅をしてきたのだろうかと想像をしてしまう。暗い夜を越え、太陽の恵みを感じ、青い空に飛ぶ海鳥を見上げ、プラントン食の魚たちから逃れ、そして時に台風に翻弄される。大きく暖かな潮流に包まれて、昼も夜も関係なく何日間も広い海を浮遊し続ける。私たちの想像には及ばない大冒険だ。そして、生き残ったごく僅かな命だけが、私たちの住む身近な海に定着する。

「季節来遊魚」には、大物ではジンベエザメ、イトマキエイなども含まれる。先日もジンベエザメが辻堂海岸の地引網に引っ掛かってしまった。これらの大物魚類は、泳力が強いために自力で外洋の黒潮まで戻ることができる。しかし、チョウチョウウオやハコフグなど定着するお魚たちは、自力で黒潮まで戻ることない。彼らは「季節来遊魚」という呼称のほかに、以前は、「死滅回遊魚」と呼ばれていた。冬の低水温期に越冬できず、そのまま消えるように死滅してしまう。
彼らを前にすると、その可愛さばかりに注目し、その背景にある凝縮された一生を忘れがちになってしまう。知らぬまに消えてしまう彼らとの別れは、短い夏の恋に少し似ているのかもしれない。

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9.お魚=食の対象?

海に潜るダイバーを初めて見たのは、私が中学生の頃でした。同級生の男友達と神戸の須磨海岸で海水浴を楽しんでいると、海から真っ黒なゴムの服を着た人がいきなり現れました。そして、私たちの方に向かって歩いてきては、手に持っていたタコの足をいきなりナイフで切り落として、「食ってみ〜」と浮き輪に上に置いて歩き去りました。恐る恐るぶつ切りになったタコの足を口の中に入れてみました。舌にタコの吸盤が吸い付くという初体験は、かなり気味悪かったのですが、天然の塩味の効いた生タコの美味さは、格別のものでした。正に、採れたて産地直送の明石タコの旨みでした。

世界中の海で潜り、ダイビングを終えて上がってくると、たまに一緒に潜っていた仲間が、「あのアジ、美味そうだったな〜!」とか、「あのアオリイカ、お造りで食べたい!」とか言います。中には、海の中で、美味しそうなお魚を見つけると、両手でお寿司を作るジャスチャーをする人もいます。そんな色々な楽しみのある海中世界ですが、私は海の中で見るお魚を一切、食の対象として見たことはありません。もちろん日常生活では、美味しくお魚を頂くのですが、どうも、海の中で見るお魚=食には結びつくことはありません。海に潜り始めた当初から水中写真家を志していましたから、お魚=被写体のイメージが強いのかもしれません。何度か、海の中で、お魚たちを食の対象として見ようと努力したのですが、やはり無理でした。もし、私が海の生き物たちを食の対象として捉え、「こいつは美味そうだな〜」と思いながら撮影することができたならば、きっと新境地を開くことができるはずだ。とちょっぴり期待しているのですが、まだまだ精進が足りないようです。

江の島や菜島周辺で息子・りうた(5歳)と釣ったお魚を持ち帰り、調理します。りうたは、ベラであろうが、ハゼであろうが、釣ったお魚はすべてちゃんと美味しく食べます。
3歳になる娘・りり子は、イカ、タコが大好物なのですが、新江ノ島水族館の水槽にいる巨大なミズタコを見るたびに毎回、「美味しそう〜」とつぶやきます・・・・。食に関しては、子供たちの方が、全くタフで歓心するばかりです・・・。
水中写真家として最後の集大成が、「見ているだけで涎(よだれ)がでそうな美味そうなお魚たち」の写真集・・。素敵な目標ができました(笑)

text:鍵井靖章

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10.海の宇宙

海のない土地で生まれ育った私にとって、海は単なる海水浴場でしかありませんでした。しかし、大学在学中に、水中写真家に伊藤勝敏氏に出会ったことで、私の海に対するイメージは一変しました。ちょうど将来の職業を模索していた私は、伊藤先生の海をまるで宇宙のように表現した写真に触れ、自身も「水中写真家になりたい」と志すようになりました。何か表現する仕事に就きたいと思っていた私は、その出会いを運命だと感じていたのかもしれません。

それから、すぐにダイビングライセンスを取得し、和歌山の串本で潜り始めました。初めて知る無重力の海中世界、見たこともないカラフルな魚やウミウシなどの可笑しな生き物、そして見上げる水面には、放射線状の太陽が輝いていました。20歳だった私にとって、海は伊藤先生の作品のように、宇宙的な広がりを持つ未知、未体験の世界でした。また、海水魚などを飼った経験がなく、特に生き物が好きだったというわけではない私にとって、海に棲む生き物たちは、すべてが初対面でした。海になかで、ウミウシはエイリアン、ヒトデは星、沈船は宇宙船などとイメージを膨らませては、海中世界に没頭していきました。

そして、プロの水中写真家として独立するまでに、オーストラリア、伊豆、モルディブで、ダイビングガイドとして従事しながら、水中撮影に励みました。どこの海に長期滞在しても、同じ海に毎日潜っても、私にとって、海中は宇宙的空間だというイメージは変わることはありませんでした。
そして今、私がホームグランドにしている葉山の海。この海も、これまでの海と変わらず、私には宇宙そのものです。特に芝崎海岸では、タイドプールでも観察も始めました。タイドプールは潮の干満で成り立ちます。干潮とは、太陽と月の引力に引っ張られて海面がへこんだ状態です。これとは逆に海面が盛り上がった状態を満潮と言います。潮の干満は、太陽、地球、月の関係によって生じます。タイドプールに立って、水位の変化を眺めると、宇宙のリズムを感じることができるのです。水深20センチから始まる海の世界は、本当に宇宙への入り口なのかも知れません。

text:鍵井靖章

 



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