そう聞いて思い起こすのは、
「サーフィン」や「江の島」、「しらす」などなど・・・。
しかし、「海の中」についてはどれだけ知っているでしょう。
このたび、神奈川県在住の水中写真家の鍵井靖章さんが、
tvkウェブサイトにてその作品を展示する運びとなりました。
自ら神奈川の海を潜り、その知られざる”世界”を紹介します。
鍵井靖章
1971年兵庫県生まれ。鎌倉市在住。 大学在学中に水中写真家・伊藤勝敏氏に師事し、水中写真を志す。オーストラリア、伊豆、モルディブでダイビングガイドを行う傍ら、水中撮影に励む。1998年、モルディブより帰国後、フリーランスフォトグラファーとして独立。現在は水中のあらゆる事象を精力的に撮影し、プランクトンからクジラまで、独特の世界観で水中の世界を写し撮る。2008年にイギリスで大型写真集「DEEP BLUE」を出版する。受賞歴、テレビ、ラジオ出演など多数。 公式サイト
先週、世界自然遺産に登録されているインドネシアのコモド諸島に取材で訪れていた。太平洋とインド洋の海流が混ざり合う海域で、様々な種類の海中生物と出会うことができた。また、陸上では、恐竜に生き残りとも言われている世界最大のトカゲ・コモドドラゴンにも対面することができた。
滞在していた5日間、朝から夕方まで毎日、ダイビングを行っていた。毎回、デジタルカメラのメディアがいっぱいになるくらいに被写体に溢れ、充実した撮影を続けることができた。ちょうど2日目の午後のダイビングでドキドキする体験をした。水深10mほどの海底で2匹のタコが、80cmほど離れた距離に居て、左側にいたタコの足が1本、右側にいるタコの頭(本当は胴体)の部分に伸びていた。なんとそれは、タコの神聖な儀式だった。イカ・タコ類の性行動は、生殖器を直接交える「交尾」ではなく、一般に「交接」と呼ばれている。
底生性のタコの右側の第3腕が交接腕の役割を持つ。オスは精子を「精きょう」あるいは「精包・せいほう」というカプセルに封じ込め、交接腕を使って、メスの口のまわりや体表、排卵口の近くに植え付け、排卵の際にそのカプセルがはじけて受精するというシステムだ。
2匹は微妙な距離を保ちつつ、1本の交接腕(足)だけで繋がっている。時間を掛けて、
ゆっくり接近して、撮影を何度か行った。カメラの大きなフラッシュに驚いて、オスは何度か交接腕を引っ込めた。そしてすぐにまたメスの身体に向けて恐る恐る1本の足を伸ばし始めた。その様子が、どうも私には私事のように思えて、ちょっぴり、いや、本当のところ、かなりドキドキしていた。一度、オスがなかなか交接腕を伸ばさなかった時があった。その時、メスは大きく立ち上がり、体を真っ白に変えた。まるで「あなた早くしなさいよ〜!」と怒り、催促しているようだった。イカ・タコ類の体色変化は、「カムフラージュ」と「コミュニケーション」の目的があると考えられている。そのような様子を眺めながら、同行してもらった日本人女性ガイドさんの顔を見ると、マスク越しに見える彼女の瞳がキラキラと輝いていた。「そうか、やっぱり彼女も同じ気持ちなんだ〜」とちょっとHな気分を共有したような気持ちに私はなっていた。約1時間、彼らの交接をみっちり観察してから、ダイビングを終えた。ボート上で、彼女に「やっぱ、ドキドキするよね〜」と尋ねたら、「初めてタコの交接を見られてとても嬉しいです!でも、2匹の距離が離れているので、別にドキドキはしませんでした。鍵井さんは、あれでドキドキしたのですか?」と逆に聞かれてしまった・・・。はい、かなりドキドキしていました・・・
実際、次のダイビングも同じポイントに潜り、観察を続けた。交接は時々中断されながらも続いていた。その後、メスがどこかに移動して産卵するのか?また交接を行ったその場所で、すぐに産卵を始めるのか?などが知りたかった。
先月、葉山の海で、私はタコの産卵床の撮影を行っていた。ガイドの輝さんに導かれ、ある大きな岩の前に到着した。どこにタコの卵があるのかな?と思っていると、輝さんはここだと指を指す。岩肌に小石が積み上げられたような状態が見受けられた。そして、輝さんが少しずつ、その小石を除けていくと穴の奥に、母タコと無数の卵があった。マダコの卵塊は「海藤花(かいとうげ)」と呼ばれ、藤の花というかブドウの房のように卵がからまって岩棚などの下に垂れ下がる。この房は産卵の際に、タコの卵の柄の部分が口のまわりの吸盤で器用により合わせて作り上げる。よく見ると、卵の中の赤ちゃんの目がはっきり確認できる。卵一粒は直径2,5mm前後。母ダコは卵が孵化するまで4週間ほど世話をし、体長3,5mmほどの稚ダコの孵化を見送ってから死亡する。一方、稚ダコはいったん浮遊生活に入り、3〜4週間後に着底し底生生活に移行する。寿命は2年。
卵の中の子供たちは、まるで夢をみているように思え、ちょっとしたファンタジーの世界に映った。あれから一ヶ月、彼らの無数の命はもうこの世界に放たれた。そして、それを見守った母ダコはもういない。その事実をしっかり理解して、私は写真家活動を続けていかなけらばならない。
text:鍵井靖章
この企画でお世話になっているテレビ神奈川さんのお昼の人気番組・ハマランチョに出演させて頂く予定になっている。月に一回で、海外取材などに出ていないどこかの木曜日。今の予定は、スタジオから、私が見つけた湘南の海岸線や海の魅力を写真と言葉で、お伝えできればと思っている。スタジオから生放送という、今までの経験にないプレシャーもあるが、このような機会を与えて頂いたことに大変感謝している。
先日、担当して頂く素敵な女性ディレクターの方と葉山の芝崎海岸へ向かった。水中カメラマンとはどんな職業なのか?と紹介する映像撮りで、海に入る姿や実際に水中でどのように撮影しているのかを撮影して頂いた。ディレクターさんは、ダイビングのライセンスを持っていないので、陸上のカメラ担当。水中撮影は、葉山NANAの佐藤輝さんに行ってもらった。実は、予定していた撮影日の前々日まで、葉山の海は波が高く、ダイビングできる状態ではなかった。そのために撮影日を変更するか、悩んでいた。しかし、撮影日の当日、朝一番で、輝さんが芝崎海岸に潜水し、透明度含む海況の確認に行ってくれるという。そして、7時過ぎには報告してくれると約束してくれた。
海の仲間は優しくて頼もしい。
そして、撮影日、朝7時過ぎに輝さんから、「大丈夫です」と連絡が入ってきた。8時半にディレクターさんと鎌倉駅の西口に集合して、葉山へ向かった。お天気はすこぶる良くポカポカ陽気で、12月であるということを忘れてさせてくれた。ただ、南西の風の影響で富士山は、ほとんど見えない状態だった。海岸線でダイビングと撮影器材を用意し、海に向かった。ディレクターさんも、エントリー場所で撮影するということで、防波堤下の岩礁まで下りて行った。上げ潮だったために、沖の小島までは、膝までの水位がある。ディレクターさんは、ダイビングスーツ姿の輝さんにおんぶされて渡っている。その姿もなんとも可愛かった。
今回は、ディレクターさんも待っているということで、約1時間のダイビング計画を立てた。私も「1時間で上がってきます!」とディレクターさんに告げて、海に入った。前回の葉山での潜水から少し時間が経過していた。水温は少し下がって19度。季節来遊魚の数は確実に減っているが、カジメなどの海藻類の新芽が多く見られる。海の中の季節は、陸上のそれよりも正確に移り変わっているように思える。少しずつ見つかる冬の気配をファインダー越しに眺めていた。キヌバリの婚姻色をそこここで見かけた。いつも白と黒というシックな体色だが、少しオレンジ色を帯び、鮮やかな印象を受ける。今の季節しか見ることのできない<恋する体躯>だ。その他に様々なお魚たちに挨拶をして撮影をした。結局、2時間近く、ダイビングをしていた。海から上がってきて、ディレクターさんは「長かったですね〜」と言いながらも、素敵な笑顔で迎えてくれた。その時点で12時半だったので、もう1本ダイビングする予定だったが、それは、キャンセルして、葉山NANAさんで、美味しい特製シラス丼に舌鼓をうった。
その後、NANAさんのスタッフから密告?を受けた(笑)。「今日、岩礁の上で誰かが寝ていると思ったら、女性ディレクターさんが、カメラバックを枕にして横になっていました・・・」と、そりゃそうですよね、ほとんど徹夜明けで来てもらって、あの陽気でしたから。そして、水を隔てた沖の岩礁にポツリひとりぼっちで2時間でしたから・・・、本当にお疲れ様でした。これからもよろしくお願いします。
text:鍵井靖章
海中世界を覗くようになって、いったいどれくらいの不思議を覚えたのだろう。その中でも貝類に見られる外套膜という薄いベールを知ったとき、私は自然のアートに感嘆した。ダイビングを始める前までは、貝といえば、サザエやアワビなどの食用の貝しか思い浮かばなかった。しかし、貝に少し興味を持ち始めると、この世界の貝を取り巻く事情は、私の想像とはまるで別次元だったことを知った。世界中に貝のコレクターがいて、深海で採取された貝殻などは高額で売買される。また、螺鈿として使用される磨かれた貝素材は、ため息がでるほど美しい。
基本的に、海の中にあるものは触らないで撮影するスタイルと通している。私の写真はドキュメンタリーなので、目に映るそのものの美しさを最大限に表現したいと心がけている。そんな私にとって、海の中で出会える外套膜の美しい貝たちは、まるで宝石のように輝く存在だった。
外套膜とは、軟体動物に見られる器官で、貝類では殻を覆う美しい膜として見ることができる。これは内臓を覆う体壁であり、また、その膜から炭酸カルシウムを分泌して、貝殻を作る。外套膜の構造の違いにより、それぞれの種に特有の貝殻の形ができる。
写真1は、テンロクケボリで、海中でよく見かける個体でウミウトサカなどに寄生している。漢字では、「点六毛彫」。背面に六つの点があるためにこの名前が付いたそうだ。外套膜は、丸いピンクの水玉模様でとても可愛い。
写真2は、ベニキヌツヅミガイで、大きさは5センチ程。個体によって色彩変異もあり、様々なデザインがある。寄生しているヤギ類の表面に、卵袋を生みつけている様子を撮影したことがあるが、そのとき、彼らはただの飾り物でなく、意思のある生き物であるということ強く認識した。
写真3は、シロオビコダマウサギ。葉山NANAのガイド・輝さんが、「珍しい個体ですよ」、と案内してくれた。漢字では、「白帯小玉兎」。貝殻そのもののデザインに白い横帯がある。ガラス細工のようだが、どことなく強さも兼ね備えたような女性的な印象を受けた。
彼らの多くは、ヤギやトサカ類などの刺胞動物に着生してその生体を食べて成長する。雌雄異体でメスが卵袋を産み、ベリジャー幼生(浮遊幼生の一種)として孵化し、一定期間後に着底して寄生生活に入るそうだ。ここで紹介した貝たちは、外套膜が引っ込むと白い貝となる。艶やかな外套膜とその白い無垢な姿が、また色っぽい。外套膜姿を見るのは、海に潜らなくていけないが、貝殻とはご対面できる。それは、ビーチコーミング。海岸線に打ち上げられた貝の中にも紛れていることが多い。
それにしても、いったい何のために、こんなに美しい外套膜を持つのだろう。花魁のように華やかな姿に、和的で優艶な魅力を感じずにはいられない。
text:鍵井靖章
今年最後の海外取材を終え、潜り納めという気持ちで葉山の海に向かった。少しひやっとする17℃の水温は、冬の始まりをもう告げていた。少し沖に泳ぎだすと、海底から真っ直ぐ空に伸びるカジメの若い芽が連立していた。これから冬にかけて、葉山の海はどんどんと姿を変えていく。カジメやホンダワラなどの海藻類が急成長し、水中に海中林を形成する。水温の高い夏にダイビングは人気だが、葉山の海は、少し違う。この海中林ができる冬の海が、実は葉山にとってダイビングのベストシーズンなのだと、私は思っている。
生まれたてのカジメの小さな森は、まだ千切れたり傷付いたりしていないので、本当に無垢で美しい。これから来年の1月、2月までに森のボリュームはぐんぐんと大きく膨らんでいく。その成長していくスピードには、驚くばかりで、少しずつ見守っていきたいという私たちの気持ちを置き去りにしていく。また、茎の根っこの部分には、新しい根の形状を見ることができる。タコウィンナーのような姿だけど、上にどんどん伸びていく側葉を支えようとする、力強い意思を感じる。
海の中にポカンと浮かんで、海底から伸びるカジメを眺めていると、まるで空から森を見つめているような不思議な気持ちになる。そして、目を閉じると、早送りの森の創世に立ち会っているような感じがする。
想像の中で、私の持つ小さな時間と森の大きな時間が逆転する。
カジメに続いてどんどん成長するのが、ホンダワラだ。水深2〜10mの海底から水面まで伸び、さらに水面を覆うように成長を続ける。葉の下に生る楕円の気泡が浮力となり、ホンダラワ全体を持ち上げる。その小さく金色に輝く気泡をみているとクリスマスツリーのグラスボールを思い出す。
最近、クリスマスの飾りつけがどんどん早くなって、25日には、クリスマス特有の輝きを失った。それに比べると、ホンダワラの小さなグラスボールは、季節通りに海中林を飾り付けてくれる。私は、きっとそれが嬉しくて、来年も同じ時期に葉山の海に向かっているはずだ。
text:鍵井靖章
昨年のクリスマスイブに息子・りうたと一緒にお料理を作った。
食材は、三宅島のダイビングサービス<ディープイン>の鈴木夫妻から送って頂いたイセエビだった。まず、本題に入る前に、生きたイセエビがゆうパックの普通の小包として送られてきたことに驚いた。小包を台所に置いていると、ダンボールの箱の中から、ガサガサと音がしたり、「ククッククッ」とイセエビの泣き声が聞こえてきた。それが、結構、奇妙な感じで、心がまず落ち着かなかった。
箱を開けてみると30cm大のイセエビが4匹入っていた。せっかく生きたまま送られて来たのだから、新鮮なうちに食べてしまおうと決意したが、調理方法など全く知らない。まずは、息子とyoutubeで、イセエビのさばき方と味噌汁の作り方を見た。意外と簡単そうなので、早速、試みた。実は箱を最初に開けたとき、息子はイセエビを触ろうともせずに、遠巻きに眺めていた。私は彼が好奇心いっぱいの瞳で、興味を示してくれるだろうと期待していたので、それは、大変ショックだった。親の勝手な思いとはこんなものだ。しかし、せっかく生きた勉強の素材があるのだから、無駄にしたくはない。少し考えて、「一緒に料理をして食べよう!」と彼に提案すると、彼の意識と興味は俄然、変わってきた。彼は釣りのときも、同じで、釣ったお魚がどんなに小さくても、ちゃんと最後まで食べる。誰に教わってわけでもないのに、彼は大切なことを知っている。
プロの料理人や漁師さんから見たら、笑われてしまう手つきかも知れないが、とにかく刺身を作り始めた、カッコなんてどうでも良い。大切なことは、息子と料理することだった。特に今回の食材は、活イセエビだ。自分の手で命を奪い、調理して、最後までちゃんと頂く。当たり前のことかも知れないが、これは私たち親子にとって貴重な時間だった。最初に私が包丁を入れ、頭と胴体を切り離し、殻を剥いていく。息子も私の助けを借りながら、同じ工程を進めていく。息子は、私の想像に反して、淡々と作業を進めていく。
私はその様子に驚き、色々なことを考えた。子供は残虐だ。その残虐な部分が作用して、躊躇もなく、生きたエビに包丁を入れることができるのか?もしくは、彼は命の重みをまだちゃんと理解していないのか?
数日後、さばいていた時の気持ちを彼に聞いてみると開口一番に、「怖かった」と言った。どうして?と質問すると、「押さえている僕の手にエビの足が引っかいてくるから」と答えた。包丁を入れて生きているイセエビが死んでしまうことは?という問いに、不思議そうな顔をして、「何にも思わなかった」と答えた。
私は、今の生活の中で、生きている生き物の命を絶つことはない。正直、今回のイセエビの頭と胴体を手でぐっと切り離す瞬間は、心に引っかかるものがあった。水中写真家という職業柄か、正直、海に生きる生き物に対して感情移入していることが多い。イセエビも私にとっては立派なモデルだから、ちょっと他の方とは事情が違うのかもしれない。きっとより過敏な部分もあると思うが、他者の命を頂くのだから、やはり平常心ではいられない。
息子がお魚を最後までちゃんと食べるのは、単純にお魚が美味しいということだったかもしれないという疑惑が出てきたが、6歳という年齢で、このような機会を持ったことは、良いことだった思う。息子は、命の重さや大切さについて知らないのではない。未熟で未経験なのだ。きっと彼自身でもこれから命の大切さを学んでいくと思うが、できれば、私は彼や家族にそのようなたくさんの機会を与え、また一緒に命の大切さを学んで生きたいと思う。イセエビの命を頂いたことで、家族としての、これからの課題にまたひとつ恵まれた。
本年もよろしくお願い致します。
text:鍵井靖章
先日、tvkのお昼の番組ハマランチョに出演させて頂いた。これまでにテレビは何度か出演したことはあるが、生本番というのは、初めての体験だった。内容は、私がこれまでに湘南の海で撮影した写真を紹介したり、実際に私が潜っている様子のVTRを見ながら、湘南の海の魅力について話させて頂いた。実は、この連載企画が出演のきっかけとなった。気に入って移り住んだ町の海の撮影を続けていくことで、少しずつ何かが実を結んでいくような感じがする。本番前に、いつも支えてくれている方々の笑顔を何度も思い出していた。
出演時間は約7〜8分だったが、あっという間に時間は過ぎて行った。無事に本番を終えて、帰宅すると、妻が開口一番、「少し緊張していたね」と声を掛けてきた。そして、仲の良いご近所の方からも「鍵井さんが緊張しているから、私も緊張しちゃった」とメールが届いた。そして更に、お世話になった番組担当ディレクターからも「緊張されていたようですが、いかがでしたか?」と続けて同じような連絡を頂いた。
私は、それほど緊張していなかったと思っていたので、みんなの意外な反応に少し驚いた。数日後、収録を録画したDVDが送られて来たので、さっそく確認してみた。画面に映る自分は、やはりどこかぎこちなかった。正直、緊張しているというよりも、妙にカッコつけようとしている感じで、それが逆にかっこ悪く見えた。全く”とほほ・・・”な状態だった・・・(笑)。
テレビという日常生活ではない場所で、たくさんの方に自分の思いや意見を聞いてもらうというのはとても貴重な経験だ。今後も出演の機会に恵まれるのならば、今度はできるだけ等身大の自分で、海から感じたメッセージや写真をお伝えしたいと思っている。
大好きな湘南の海と海中世界のことを話させて頂くのだから、こんなに嬉しいことはない。
このテキストは、ニューヨーク経由のフロリダ行きの機内で書いている。昨年に引き続き、人魚と呼ばれる<マナティ>に会いにクリスタル・リバーまでやってきた。今年から、一緒に泳ぐルールが厳しくなって、水面に浮かんだ状態のみの撮影となった。昨年まで行っていた水中に巣潜りしての撮影は禁止となった。生き物と人間との関係がどんどん変化していく。とにかく、彼らの環境に変化を与えないように気をつけて撮影していきたい。
text:鍵井靖章
先週までの9日間、私はフロリダのクリスタル・リバーでマナティの撮影を行っていた。マナティは、ジュゴンと同様に、海牛類に属する海洋ほ乳類だ。マナティは、アフリカ、アマゾン、フロリダに生息していて、そろぞれ、違う種になる。以前は、ベーリング海峡付近にも8mにもなる、ステラカイギュウという種がいたが、警戒心が無く、肉が子牛の味に似てることから乱獲され、人間に発見されてから、およそ30年で絶滅したと言われている。
フロリダマナティも、同様に警戒心が無く、今現在もボートのプロペラにテールや背中を引きちぎられてしまうという弊害が多くある。実際に、何頭もの傷を持ったマナティと現地で出会った。
一番最近の調査で、以前より個体数が増えて、全体で5000頭ほどが、フロリダ半島周辺に生息していると考えられている。夏は、海の水温が高いので、外洋で生活をしているが、冬の時期、海水温が下がると、暖かい水を求めて、クリスタル・リバーやホモサッサなど、地下水が湧き出る泉のある場所へと集まってくる。海水温は、夏と冬とでは変化があるが、フロリダの地下水は、一年を通して22度に保たれている。冬の時期、暖をとるように泉の集まるたくさんのマナティを撮影することができる。
私は昨年とその前にもう一度の合計3回、マナティの撮影を行った。マナティが集まる泉は、スリーシスターズやキングス・スプリングスという名の付いた場所。昨年から保護のために、スリーシスターズ周辺の土地が、フロリダ州とクリスタル・リバー市に買い取られた。そのために、マナティスイムのルールが明確化され、監視員の下での触れ合いとなった。
例えば、
・マナティのいる泉の中で素潜りしない。
・マナティ追いかけない。
・寝ているマナティの上を泳がない
などなどのルールが出来た。
最初は戸惑い、正直、面倒だとさえ思った。「そんなルールがなくても、今まで、他の海の動物と触れ合ってきた経験からマナティとも友好な関係で、撮影できる!」と思っていた。
でも、それは間違っていた。
数日間、マナティと泳いでみて、昨年よりもマナティが積極的に、私たちにアプローチしてくれる変化に気が付いた。今までは、マナティを見つけると、ガァーと素潜りで近づいて、彼らの気持ちなど関係なく、撮影していたと思う。しかし、今回は、まず彼らから来てくれるのを待って、その後スキンシップ&撮影を楽しんでいる。
正直、マナティがこんなに大胆で、人懐こい生き物だとは、知らなかった。昨年と同じように自由な感じで、ズコズコ楽しんでいたら、こんなにかわいいマナティの素顔を知らずにいたのかもしれない。
ザトウクジラやマンタなどの海洋生物との出会いも同じだ。こちらから大胆に接近するのではなく、彼らのペースで出会いを楽しむと、期待以上のスキンシップに恵まれることがある。生き物との出会いは、すべてそうなのかもしれない。20年間、水中で生き物を撮影し、少しは分かっているつもりでいたが、まだまだ精進が足りない。
葉山、鎌倉をホームグランドの海として、撮影しているが、少し慣れた分だけ、どこか驕りの部分が出てきたかもしれない。もう一度、謙虚な気持ちで自分の住む海と接していきたいと思った。
text:鍵井靖章
海外取材が続き、しばらく葉山、鎌倉の海で潜っていない。今、葉山の海は、カジメやホンダワラなどの海藻がんぐんと成長し、大きな森を創造する。夏枯れしていたカジメは大きく葉を広げ、ホンダワラの天辺は水面まで届き、報国寺の竹林のような静謐さを持つ。さっぱりとした夏の海底景観とは打って変わり、まるで早送りの映画を見ているように森が急ピッチで形成されていく。すべての葉々は生き生きとし、まるで原生林の赴きを持つ。
これから、中国、フィリピン取材があり、次回、葉山に潜る日を、2月27日に設定している。それまで更に、どんどん美しい森へと変貌していること期待したい。
昨晩、江ノ島で開催されているイベント<Valentine Island Enoshima 2011 〜湘南の宝石〜>に我が家と友人家族と向かった。この3年間、毎年見に行っている。ちょっとした恒例行事になっている。サムエル・コッキング苑内は、数百個のミラーボールによる壮大でファンタジックな光の世界が広がっている。
森林の暗闇に無数の光が溢れ、その様子が少し深い海底にも似ているように思える。無数の光の粒は海の生き物たちの命の輝きにも思える。暗い海底で人知れずに生まれ、一瞬の命をきらめかせて、儚く消えていく。実際は、そうではないかもしれないが、大きな魚たちにあっという間に食べられてしまうカタクチイワシなどの小さな魚たちをどうしても連想してしまう。そして、2月の夜の冷たい空気が、海の中にまた良く似ている。
1MIRROR BOWLER 光アートは2011年2月5日(土)〜14日(月) 17:00〜20:00まで開催されているようです。興味のある方は、是非。
text:鍵井靖章
今日(2月23日)現在、フィリピンのボホールで取材中。全ての撮影を終えて、1週間の画像の整理を終えたばかり。今回は悪天候に翻弄された取材となったが、お目得てのお魚にも無事に会えることができ、収穫のある日々となった。
これまでにボホールには5回ほど、フィリピン全体では計20回近く取材に訪れている。そんなに来ていたら、もう撮影するべきお魚はいないのでは?と思われるかもしれないが、毎回、違った発見や出会いがあり、まだまだ撮影は十分でない。私の仕事は、珍しいお魚ばかりを撮影していているのではない。クマノミを初め、カマス、マグロ、ヒラメ、タコやイカなど皆さんに馴染みのある海の生き物たちも撮影をしている。しかし、毎回、図鑑の使用されるような横位置の写真ばかり撮影しているわけではない。例えば、彼らの生活環境を入れ込んだ写真やまたは正面顔、あくびした顔、もしくは、アーティスティックなポートレート写真なども撮影している。生活環境を入れ込んだ写真の例としては、クマノミとイソギンチャクの共生が挙げられる。クマノミはイソギンチャクに住むことで、外敵から身を守っている。イソギンチャクの触手には刺胞という毒のようなものがあり、クマノミがイソギンチャクに住む限り手出しされることはまずない。柔らかいイソギンチャクに包まれて休んでいるクマノミを見ていると、なにやら気持ち良さそうで、こちらも水中で眠気を誘われることもある。
今回、選んだ写真を見てもらうとイソギンチャクが白くなっている。これは白化現象と呼ばれ、イソギンチャク内に共生している渇虫藻というプランクトンを失った状態になっている。見た目は美しいが、健全な状態ではない。これは海水温が上昇したときに見られる状況で、地球温暖化が起因していると言われている。このように1枚の写真から、その海の健康状態を知ることもできる。
そして、彼らの何気ない姿を撮影しようと毎回、四苦八苦している。あくびしている様子を撮影するのは、偶然の成果の場合も多い。他に、普段の撮影で彼らとの距離を縮めることに成功しても、次に逃げずに居られる状態を保つのがこれまた難しい。「せっかくお近づきになれたのだから、上手く撮影したい!」と欲を出せば出すほど、簡単にお魚たちは逃げてしまう。正直、好きな異性にこちらを振り向いてもらう、または、興味を持ってもらうという一連の行為にとても似ていると思う。少し押してみたり、引いてみたり、吐く泡で驚かせないように息を止めたり、または、気に触らない程度に深呼吸してみたり・・・。
ほんと好きになってもらいたい一身で、全身全霊を傾ける・・・・。
選んだ画像の中で、ワイドで撮影したサザナミヤッコの写真が正にそうだった。近づいても逃げられないように一挙手一投足に注目し、一瞬の隙をも見逃さまいと一身攻防?のせめぎ合いだった。毎回、短時間だけど、少なからずとも、小さな恋をたくさんしている。良い写真を撮影するめに、被写体への興味がまず大切だ。気が多いだけの男かも知れないが、素敵な出会いに恵まれたときは、水中写真家として、つくづく幸せだなとひとり納得している。
お知らせ!です。
明日、24日(木曜日)にハマランチョに生出演します。是非、皆さん見てください!
text:鍵井靖章
先月の2月24日(木曜日)にテレビ神奈川さんのお昼の人気番組の「ハマランチョ」に2度目の出演をさせて頂いた。初回は葉山・鎌倉の海を紹介し、2回目は今年に入って取材したフィリピン、フロリダなどの海外の海を紹介した。
当日は、10時30分頃にスタジオに入り、司会のテミヤンさん、尾辻舞アナ、担当ディレクターさんと打ち合わせをする。そして、本番前にメーク室へ。ここで顔にどうらん(?)を塗り、眉毛をさっさっと描き、髪の毛をセットしてもらう。このときは、さすがにタレントさんになったような気分になり、テンションが多少アゲアゲとなる。(笑)。そして出演する少し前に1階の<ヨコハマNEWSハーバー>に下りる。「ハマランチョ」の収録は、関内にある横浜メディア・ビジネスセンター1階のオープンスペースを少し区切った場所で行われている、同じフロアにはレストランがあり、ランチタイムは、ここの人気ブュッフェをお目当てに多くのサラリーマンが食事を楽しんでいる。その真横の舞台裏で、「ぷ〜ん」と美味しそうな匂いに包まれながら、プロデューサーの紅子さんに励まされ、本番を迎える。
今回は、前回よりもリラックスして話すことができた・・・はず。ただ、カメラの下のいるスタッフの方(ADさんかな?)が、「あと2分です」など、紙に書いて見せてくれるのだが、それを見ると、「うぁ、あとまだこれだけ話す予定なのに・・・」など少し焦る。司会に方がうまくまとめてくれるのに、小心者の私はいらぬ心配をしてしまう。
後日、収録されたDVDを送ってもらい、いくつもの反省点を発見!
まず、かみかみ(これは、当日のツイッターでも友人につぶやかれていた(笑)そして、早口。ゆっくり話すことができれば、多分かみかみも少しは解消されるはず。そして一番、気になったのは、身体の揺れ。まぁ落ち着きなく、上半身が揺れる揺れる。司会のお二人はぴしっと背筋が伸びているのに、その隣で、私は軟体動物のタコのように、ぐにゃぐにゃ。これまではいくら撮る方だったからといえ、もう少し気が付くはずでしょう・・・と自責の念。
次回からは、また違った形で、スタジオに呼んで頂けるとのこと。そのときは、もう少し堂々として、海のお話をみなさんに聞いて頂きたいと思います。よろしくお願いします。
この連載も、30回を迎えました。海外取材が続くとお休みすることがあったのですが、誤字脱字を見逃し、いつも温かく見守ってくれる担当のFさんにとても感謝しています。ありがとうございます。
text:鍵井靖章