• 5年間住んでいた賃貸の物件を引っ越す際の出来事です。
    仲介業者立ち会いのもと、退去の手続きを行ったのですが、床や壁の汚れがひどいとのことで、後日、50万円ほどの請求書が来ました。敷金がいくらか戻ってくる、と思っていた手前、敷金の戻しがないどころか、金額の請求までされて、驚いております。事前にこのような説明を受けていたのか記憶が定かではありませんが、であれば、そもそも敷金は何のために支払うのでしょうか。法律に基づいた見解を、教えてください。よろしくお願いします。
  • ペンネーム「おおやまだ」様
  • ペンネーム「おおやまだ」さん、こんにちは。少し長くなりますが検討してみますね。
    敷金の定義については、民法に規定がありません。判例により「賃貸借終了の際において、賃借人に債務不履行があるときにはその弁済に充当することを約して授受する金銭であって、賃借人に債務不履行がないときには賃借人が返還請求権を有するもの」とされております。
    つまり、賃貸借終了の際に、賃借人が賃貸借契約に基づき負担する債務があれば、敷金はその弁済に充てるため、返してもらえない可能性があるということです。

    それでは、賃貸借終了後に借りていた物に必要な補修費用は誰の負担となるのでしょうか。
    判例は「賃借物件の損耗の発生は、賃貸借という契約の本質上当然に予定されているものであり、建物の賃貸借においては、賃借人が通常の使用をした場合に生ずる賃借物件の劣化又は価値の減少を意味する通常損耗に係る投下資本の原価の回収は、通常、減価償却費や修繕費等の必要経費分を賃料の中に含ませている。そうすると、賃借人に通常損耗についての原状回復義務を負わせるのは、賃借人に予期しない特別の負担を課すことになるから、賃借人が補修費用を負担することになる通常損耗の範囲につき、賃貸借契約書自体に具体的に明記されているか、賃貸人が口頭により説明し、賃借人がその旨を明確に認識し、それを合意の内容としたものと認められるなど、その旨の特約が明確に合意されていることが必要である」と示しています(最高裁平成17年12月16日判決)。
    簡単に言いますと、賃借人が普通の使い方をした場合の汚れや損傷等については、賃借人は責任を負いませんが、賃貸人との特約がある場合には責任を負う可能性があるということです。

    では、今回のケースにあてはめて考えてみましょう。 まず、床や壁の汚れが、普通の使い方をした場合の汚れの範囲内であるか否かという点が問題になります。その範囲内であれば、基本的に賃借人は補修費用の負担をしないと考えられます。
    しかし、今回の汚れが普通の汚れの範囲内である場合であっても、特約の内容によっては、賃借人が補修費用の負担をする可能性があります。「おおやまだ」さんの場合、「事前にこのような説明を受けていたのか記憶が定かではない」ということですので、特約の有無について、契約書を確認してみると良いと思います。