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神奈川ビジネスUp To Date

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1月29日放送
業績好調のファンケル 新社長が描く理想の組織


ゲスト
株式会社ファンケル
    代表取締役 社長執行役員 CEO 島田和幸さん

1955年 広島県出身
1979年 同志社大学法学部卒業、ダイエー入社
1999年 社長室 副室長
2001年 マルエツ入社
2003年 経営戦略室 秘書部長
2003年 ファンケル入社
2015年 取締役 専務執行役員
2017年 代表取締役 社長執行役員 CEO
     兼 マーケティング本部長 就任


昨年4月から株価2倍と業績好調のファンケル。その背景には島田和幸社長の大胆な組織改革・社内コミュニケーションがあった。分社化されていた化粧品と健康食品事業を統合して「ALL FANCL」の一体感を醸成、社員のモチベーションにつながる「情報発信」を積極的に行っているという。「健康経営」が注目される今、新たな事業への期待も高まっているファンケル。島田社長が描く理想の組織の姿、そして今後の経営戦略に迫る。



内田
島田社長がファンケルの社長に就任されてからファンケルは業績好調ということで素晴らしいのですけども、島田さんは一体何をやったのか、非常に興味深いところです。まず就任時を振り返っていただいて、ファンケルはその時どういう状況だったのか?そしてご自身が就任される時のミッションというものをどのように感じられていたのか教えていただけますか。

島田
私が社長に就任したのは昨年、2017年の4月なんですね。2013年のお正月に創業者で現会長の池森賢二が経営に復帰をして、ずっと長期低迷をしていましたので様々な構造改革を約2年ほどやって、2015年から新しい中期経営計画ということで3カ年計画がスタートして、ちょうどその3年目なんです。1年目2年目が非常に好調に行っていまして、売り上げが1年目17%伸び、2年目も6%伸び、それで3年目ということで売り上げを右肩上がりで伸ばし続けていくということ、同時に収益を上げていく、利益を稼げるようにするということが今最大のミッションだった、というのが去年の4月ですね。

内田
その時、島田さんに社長をやって欲しいという話があった。どんな気持ちだったのですか?

島田
正直申し上げて、「やらないといけないかな」という気持ちはありました。ただ、その時に社長だけではなくてCEOをやれという風に池森から言われまして。「CEOは池森さんでしょ」と。急にそんなこと言われても困ったなと。「全部お前の責任でやりなさい」と。

内田
ファンケル人生の中で、いつか自分はリーダーシップをとっていくんじゃないかという予感というか、思いというのはお有りになったのですか?

島田
それは本当にここ数年の話ですね。そういう局面が有るかもしれないし、そういうことが、チャンスがあればやってみたいという気持ちはございました。


1980年に創業以来、無添加化粧品、健康食品のリーディングカンパニーとして「正直品質。」をキーワードに、新たな市場を作ってきたファンケル。現在は化粧品、サプリメントを中心に中期経営計画の広告先行戦略が功を奏して業績も好調。この業績の裏側を支えるのは昨年4月に行った大きな組織改革だった。2014年に化粧品事業を株式会社ファンケル化粧品、健康事業を株式会社ファンケルヘルスサイエンスに分社化し、独立経営によってそれぞれの分野の研究開発、販売を強化。しかし2017年4月に社長に就任した島田社長はこれを解消。両社を株式会社ファンケルに統合した。社長就任から現在に至るまでの経営と好循環をもたらす組織論に迫る。


内田
持ち株会社でそれぞれ分社化していると、それを一つにしていくというのは、言葉では簡単ですけれども、いろいろな調整があったと思うのですが。

島田
私が社長に就任するまでというのは持ち株会社制にしていて、化粧品の事業、健康食品の事業というのを別の会社でやっていました。そういう中で、事業ごとに戦略を明確に定めて伸ばしていくという視点ではすごく良いのですけども、グループ全体で見た時には、やはり組織間の調整が面倒くさくなるとか、やはり何となく壁ができていくとか、一体感がなくなっていくというマイナス面もあったので、池森とも相談をして、ここは一旦持ち株会社制というのを解消して、株式会社ファンケルという一つにしてやっていきたいと。

内田
そうは言ってもポストは減るわけじゃないですか?しかも様々な権限みたいなものが大きく変化していく中で、社内改革というのは会社がざわつくものですよね?そこをどう調整し、みんなを納得させて前向きなベクトルに向かわせていったのかというところを是非お伺いしたいです。

島田
組織を変えていくプロセスというのは、おっしゃる通り、一人一人の立場からすると、変わったことが自分にプラスに働く人とマイナスに働く方とがいらっしゃるわけですよね。

内田
すごく不安になります。

島田
ですから実質4月からスタートしましたけども、その1ヶ月前には組織を示して、人事も示して、早期に新しい体制に移れるようにしました。もともと一つの会社でやっていたものを、事業ごとの戦略を明確にしていこうということで分けたのですけど、ファンケルのユーザーはお一人なんですよね。お一人の女性の方が化粧品もお買い求めになり、サプリメントもお買い求めになっている。それを違う会社から買っているというような。ですからお客様の立場からすると、ファンケルで両方買うというのが普通ですから。

内田
「ファンケルで買っている」と思い込んでいます。でも実態は違う会社。

島田
「違う会社で作っています」、みたいなことになっていたので、そこをお客様の視点で考えようということですね。ファンケルの強みというのは、研究もやり、自社で製造もして、販売の企画も作って、お客様に直接、自社の従業員が商品を販売する。そのやり方が通信販売だったり、店舗だったり、流通卸しとかいろいろあるわけですけど、一貫して自社で全部やり切れるというところがファンケルの強みなんですよ。ここの強みに更に磨きをかけていく。少し詰まっているところがあるとすると、そこの詰まりをなくしていく。

内田
社長になられて、「ファンケルという会社は何なのだろう」と宣伝をしていくという時によく考えられたと思うのですね。何を伝えていくのだろうかと。「正直品質」というキーワードであるとか。「一貫して作れている」からこその「正直品質」というものを、お互いが担保し合っているということですか?

島田
研究製造から一貫してやっている一個一個の商品、これの良さをきちんとお伝えするという、例えば今ですと「マイルドクレンジングオイル」ですとか、サプリメントの「えんきん」ですとか、これらは商品ごとのコマーシャルをやらせていただいていますけど、この商品ごとをしっかり際立たせるというコマーシャルと、ファンケルが大事にしてきたものづくりに対するこだわりですとか、お客様に対するお約束、こういったものを「正直品質」という言葉に託して、そういったものの両輪が良い結果を生んでいるんじゃないかなと思いますね。

内田
業績も数字としてものすごく表れている。もっと言うと株価も社長に就任された時よりも倍になってるわけですよね?ここはもう圧倒的なファクトなわけで。

島田
そうですね、私が社長になる前日の株価が1600円だったんです。今3400円ぐらい。夢のような株価ですね。市場全体が非常に活性化しているということもありますけど、今までやってきたことが結果として業績に結びついて、それを市場からも認めていただいているということで大変ありがたいと思いますね。


島田社長が目指す「ALL FANCL」としての一体経営。その中で注力しているのは社員とのコミュニケーション。毎週「島田レポート」を発行し、自らの考え、行動を発信、さらに社員との懇親会を開くなど、積極的に交流を行っているという。また今年4月には直営店舗で接客・販売を担う契約社員およそ1,000人を正社員にすると発表。人材の確保を行いながら、給与や手当などの待遇面を改善するという。会社を形作る人と組織。島田社長が描く理想の姿、そして実現に向けた取り組みとは


内田
「皆が一丸となって」という時、経営トップのリーダーシップが大事なわけで、そういう意味で、いろいろ社員の方たちに語りかけたという風に聞いています。

島田
「オール・ファンケル、ワン・ファンケル」というスローガンを掲げて、「研究製造から販売まで一貫しているんだから、その強みを発揮しよう、それで稼いでいこう」という方針を出したのですけども、私自身のことも知ってもらわないといけないですし、それから従業員のことももっと深く知らないといけないので、そういうコミュニケーションには心を砕きましたね。仕事に対する姿勢、心構えのようなものは割と口うるさいというか、しつこく社内にメッセージとして出したと思います。

内田
「島田レポート」というものも拝見しましたけれども、非常に活動的に現場を回られていて、何をそこで体験して感じられたのか。

島田
ややもすると、社長が何をしているかってわからないですよね?

内田
もうほとんどわからないですね。

島田
社長からすると、わかってもらっていないというのも結構寂しいもので。

内田
こんなに一生懸命やっているのにわかってもらえていない?

島田
「こんなに忙しいのだぞ」と。お店をこんなところ行ったよとか、こんな出張したよとか。私自身も頑張ってはいるのですけども、そういったものをできるだけリアルにわかって欲しいということで、就任直後から毎週一週間の記録を写真中心で、こんなことがあった、こんなことをしているというのをレポートしているんです。

内田
社長がいらっしゃる、お仕事をされているのが社員の方たちと同じフロアで机を置いてやっていらっしゃるという。

島田
そうですね。向こうからも、社員からも見えていた方が良いと思いますし、私も見えていた方が良いので。実はマーケティング本部長というのを兼務していまして、今私がいるところはマーケティング本部があるところの隅っこ。

内田
いろいろな方面からヒアリングをしていますと、こんなに社員の中に入っていく社長は今までいなかったと。

島田
できるだけフランクに接したいと思いますし、やはり個室に入って籠って秘書が決めたスケジュールで順番に話を聞く、というのが本当に良いのかどうかと思うと、やはりそれではわからないこともたくさんあると思うんですよね。

内田
そういうご自身の哲学と言いますか、方針というのはどうやって醸成されていったのですか?

島田
私、前職はダイエーにおりまして。ダイエーの創業オーナーだった中内功さんの秘書を最後の8年ほどさせていただいて。

内田
8年ずっと一緒にいて?

島田
はい。中内さんがダイエーを追われた時に私も一緒にダイエーを辞めるのですけども。その後グループ会社のマルエツに2年お世話になって、2003年にファンケルに入社させていただくのですけど、1993年に中内さんの秘書になってから以来、ずっとトップの側で仕事をしているんです。私の上にいた社長を数えると7人ぐらいになると思います。「カリスマオーナー」と言われるのは中内功さんであり、ファンケルの創業者の池森賢二さんなんですね。ファンケルに入って今、池森さんと一緒にずっと仕事をしてきている中で、やはりトップというのが何を考えてどう動いていくのかということを間近に見て、それが業績にどう繋がるかとか、決して真似はできないんですよ。

内田
違う人間ですしね。

島田
私は経験もありませんし、不得意な部分もたくさんございますので、やはり本当にフランクに、みんなと一緒になって、みんなと一緒に考えて仕事をやっていく、それしかないのかなと。

内田
とは言え、そういうカリスマ経営者から影響を受けていたり、経営の本質はここだというものを見出したりするところがあったと思うのですけど。

島田
今一緒にずっと育ててもらった池森の例にすると、池森が復帰をした2013年、経営に復帰してすぐに「店舗の従業員の給料を月一律2万円上げろ」という指示が出たんです。私はその管理の担当役員ですから、1000人もいる店舗のスタッフのお給料を月2万円ずつ上げたら。

内田
すぐにかけ算しちゃいますよね。

島田
どんなに会社の損益に影響が出るかと思いますよね。

内田
簡単なことではないです。

島田
しばらく考えていたらですね、「いつまで考えてんだ、すぐに上げろ」と。結果としてそれがその店舗のスタッフの方のモチベーションアップだったり、会社がスタッフの方を大事にしている、こういう条件だったらファンケルに入社したいという人が増えてきたりとか、退職のリスクが減ったり、ということで好循環になるわけですね。

内田
単なるマイナスとか損失とか数字の計算ではなく、それが生み出すものということを考えていらっしゃるわけですね。

島田
特にファンケルの場合は本当に池森が一人で始めて、世の中にない無添加化粧品というのを世に出して、それがお客様から認めていただいて、今ここまで来ているわけですけど、やはりものを生み出す、チャレンジして何かを生み出していくということについては、すごく学ばせていただいているなと思いますね。

内田
今度の4月に新しい中期経営計画策定ということで、いろいろとお考えだと思います。ここから「島田色」というもの打ち出していく、というタイミングになると思うのですけれども。

島田
今までなかなかチャレンジできなかった新しい領域に踏み出していかないといけないと思っていまして。海外事業ですね。大手の化粧品メーカーさんがいずれも海外で売り上げを非常に成長させていらっしゃる。ファンケルも良い芽はあるのですけども、まだグループ全体の売り上げで占める割合は10%にも満たない。今まで本気でチャレンジできなかった海外事業、ここをこの新しい3年の中では伸ばしていきたい。目に見える数字で伸ばしていきたいという風に思っています。

内田
これからまた広げていくとなると、やはり海外展開を任せられる人というのが非常に重要になってきますよね?ここは課題なのかなというところもあるのですけど。

島田
おっしゃる通りですね。人材の流動性が高い中で、必要な人材を外から採ってくればいいじゃないかという議論もあるかもしれませんけど、私は必ずしもそうだとは思っていなくて。よっぽど足りない、明確なテーマがあった時には、そういうことも有るかもしれませんが、できれば私は社内の人間を育てたいですね。長い道のりかもしれないけど、しっかり企業の理念だとか、ファンケルらしさだとか、ファンケルの製品だとか、後は人のつながり。こういったもののベースがある人を大変かもしれないですけど育てたい。

内田
それだけファンケルが持っている商品というものは「理念の具現化」であり、それを理解するからこそ売っていけるんだという、ある意味、難しい商品というか、奥行きのある商品というか。

島田
そうかもしれません。非常にこだわりのある商品です。

内田
その人材育成をコツコツとやっていく。

島田
そうですね。


化粧品・健康食品事業を中心に発展してきたファンケル。現在注力しているのはBtoB分野での新事業。「健康」への注目を背景に、ネスレ日本、ダイドードリンコと既存商品を生かした協業を進めてきた。また健康経営を実践するファンケルならではのサービスとして「健康増進」を展開。神奈川県が進める「ME-BYO」(未病)ブランドとも連携し、「ファンケル学べる健康レストラン」をオープンするなど、今後の成長分野として期待されている。4月には新たな中期経営計画の発表が控える中、島田社長が見据える今後の展開とは。


内田
人生100年時代と?

島田
人生100年時代です。

内田
本当にみんな「長生きリスク」みたいなものを感じていて、その中でどう健やかに生きるかというところは課題ですよね。アンチエイジングもそうですし、健康もある。どんなものがこれから求められていくのかということを、敢えてマーケティング本部長である島田さんに伺いたいのですけども。

島田
今2020年に向けての中期の経営計画を作ると同時に、「ビジョン2030」と言って、13年先のファンケル、世の中はどうだろうというようなことも考え始めているんですね。実は2020年が創業40周年なんです。その10年先、2030年は創業50周年なんですよ。この時の世の中がどうなっているかを考えて、そこに向けて頑張っていこうということなんですけど、いろいろな本を読んだり、統計を見たりしても、明るいことは一つも書いていない。

内田
人口も減っていくし、産業も衰退していく。

島田
団塊の世代がもうみんな75歳以上になっちゃうとか、寿命だけは100歳になっちゃう、労働人口は減ってくるということですけど、やはりそういう時、みんなが健やかに健康が維持できて健康寿命を延ばしていくこととか、美しくありたいということの気持ちは変わらないわけで、これが単に化粧品だけなのかわかりませんけど、美しくなるためにどういう商品、サービスをご提供するのがいいのかというようなことを今考えています。いくらでも夢は広がるわけですよね。

内田
そうですね。それを求める人たちはどんどん増えていくわけですからね。

島田
これは実は日本だけではないのですね。10年ぐらい遅れると中国も高齢化がどんどん進んでくる。ここに巨大なマーケットが待っているわけで、ですから日本できちっと事業モデルを作り、製品も作ってご提供するということが成功すれば、これはもう、いくらでも市場がある。

内田
株価も好調で、業績も良くて、大変期待も高まっているということでプレッシャーもあると思うのですけども、ファンケルをこれからどういう会社にしていくのか、していきたいのかというところを改めて。

島田
本当に今、プレッシャーの中でもがいておりますが、池森が一人で1980年に創業してここまで来たわけですね。素晴らしい事業モデルがあったからこそ今ここまで来ているのですけど、私今、社員には75歳まで働かないといけない世の中になるよと言っているんです、60定年なんてあり得ないと。だからそういう若い人たちが75歳までファンケルでしっかり働ける、世の中どんどん変わっていきますから、その中でしっかりした商品、サービスをご提供できて成長している会社、そういった会社にしていきたいと思っています。



tvkのYouTube公式チャンネルの「見逃し配信」では取材VTRも含め、インタビュー全篇をご覧いただけます。(視聴無料です)

1月22日放送分
老舗企業の「伝統」「革新」 襲名と企業存続の本質


ゲスト
株式会社ういろう
代表取締役 外郎藤右衛門さん

神奈川最古の企業として知られ、創業から650年を数える「ういろう」。経営を担ってきた二十五代当主・外郎武氏は、昨年11月に「藤右衛門」を襲名。戸籍までを変える改名を行い、大きな節目を迎えた。門外不出の製法で、薬・菓子を当時のままにつないできた「ういろう」。企業の平均寿命は23年とも言われる中、現代へ引き継がれる経営の本質とは。襲名という節目に、神奈川・小田原の歴史、そして企業存続のヒントを探る。



内田
今、経済界を見渡してみると「第四次産業革命」なんていう風に言われているぐらい激動の時代。今までの常識、商習慣みたいなものが全く通用しなくなってきている、そういう時代にさしかかってきているわけです。経営の舵取りが難しい時代で何が企業を存続させていくのかというポイントみたいなものが外郎家から探れたらいいと思うのですけども。 

外郎
私が思うには、やはり自分たちのコア業務は何なのか、コアをしっかり守るということだと思います。私どもは元々医薬に長けた一族でありましたので、昔ながらの「心を込めて時間をかけて作る」ということに徹して、お客様との信頼関係においてお渡しさせていただいている。こういう博物館にも昔の職人さんが作った生活家財品が置いてあります。そういうものを見ていただくと分かると思うのですけども、元々日本人は真面目な性格でしっかり物を作るということが根本的な気質としてあったと思います。ただ物を売る為に作るということになっていくと、もしかしたら品質を落としてでも売ろうとしたり、数をたくさん作って売ろうとすることによって、本来やるべき手間と時間をかけるということを端折らざるを得なくなってくるかもしれません。でも我々がやっていることというのは、確かに薬もお菓子も歴史があるのですけども、歴史があるからとかそういうことではなくて、お客様との信頼があるから皆さん私どもの店にご来店いただけると思っていますので、その信頼を損なったらば確かに我々も長くは続かなくなると思います。

内田
いかに効率よく、たくさん、コストを安く物を作るかというものが追求されてきた経営と、ある意味、逆?

外郎
規模を拡大しなければいけないとか、そういう方向に走るとどうしても利益をより上げて、投資を更に続けていって規模を拡大していくという話になると思うのですけども。

内田
なりますね。

外郎
私は敢えて「身の丈経営」という風に言いますけども、株式会社ういろうは外郎家が営む会社ですので自分たちの目の行き届く範囲でしっかり物を作って、観光地小田原に、もしくは地元の方、来られる方にちゃんとそれをお渡しする、それを基本にさせていただいて、知名度を上げるためにとか、商品を外に出していくとか、そうした方が確かに商売としては大きく成功するのかもしれませんけれども、やはり「継続」を第一に考えています。これは自分たちが継続をしたいのではなくて、長らく何代にも渡って私どもが作ったものをご利用いただいている皆さまの信頼を裏切りたくないから。そのためには小さいながらでもその方々にしっかりとお渡しをすると。


外郎家の歴史は小田原の歴史。戦国時代の1504年、5代目藤右衞門定治が北条早雲の招きを受け京都から小田原に移住。代々伝わる家業の丸薬づくりを始め、小田原における「ういろう」の歴史のはじまりとなった。地元小田原のみならず、東海道を行き交う人々の健康と癒しを支えてきた歴史は浮世絵などの貴重な史料に描かれ、残されている。職人が丹精こめて作るその製法も、地元だけの商いも「一子相伝」。伝統的な経営は、変わりゆく激動の時代の中でどのように貫かれてきたのか。


内田
「老舗経営」というと必ず出てくるキーワード、「伝統」と「革新」ということで言い表されます。守るものと、革新していく、変わっていくものを両方やってきて、時代の変化に合わせてきたからこそ存続しているという企業が多いのですけれども、ういろうの今の姿を見ていると、革新という部分の「イノベーションをずっとやってきた」というよりも、「しっかりと守ってきた」ということの方が強いのだろうと思うのですが。

外郎
続けてこられた「古き良きもの」、これはしっかり守る。でも革新をしないわけではないんです。「革新」というと何かかなり大きな変化のイメージですけども、今でも我々は進歩を続けています。主力の商品は昔ながらのものをちゃんと作っているのですけども、昔ながらを作るということは、実はその作り手が進化をしないともう作れない時代なんですね。

内田
「守る」ということが「何もしない」ということではなく?

外郎
ないです。

内田
維持することがとても難しい?

外郎
難しい時代です。原材料をきちっと五感で品定めしないといけないのですけども、生産地、そういった環境も変わってきますので、その中できちっと良質なものを目利きして仕入れをさせていただいて、アウトプットはちゃんとそれを維持する。そのために常に中の人間はただ同じことをずっとやっているのではなくて、緊張感を持って、時には技術を、知識を進化させないと駄目なんですね。

内田
それはなかなか見えない部分ですね。でもその内部ではとてつもない努力が行われている?

外郎
はい。それでまた外に研修に行ったりして、外の世界も知りながら。そういう知識を持ちながらコアのものに、また進歩したものを活かして。

内田
ういろうのラインナップを見ると、やはり「透頂香」というものが変わらずあって、そして「ういろう」というお菓子があって、という非常に絞り込んだものですよね?

外郎
新商品を作ることは可能ですけども、やはり限られた体制でやっていますので。どんどん品揃えを広げていくということは、当然それだけ1つのものを作ることに集中できなくなるかもしれません。じゃあ人員を投入し、もしくは機械を導入していけば、品揃えは広げていけるかもしれませんけれども、自分たちの目の行き届く範囲を考えた時、あまり規模を拡大すると、経済環境の変化だったり、お客様の足が途絶えると急に店舗を閉鎖したりとか、場合によってはリストラをしてしまうとか、そういうことも起こり得る。社員は大切な仲間なので、経営が厳しくなったから社員をここから切りますとか、そういうことはしたくないので、やっぱりうまく回れる規模感でやっていくべきではないかなと思いますね。


昨年11月に行われた外郎藤右衞門襲名披露祝賀会は、初めて公の場で行われた。新しい25代目当主は、地元小田原とのさらなる連携を強化。ともに発展を目指す姿勢を打ち出した。この襲名披露祝賀会は、小田原経済界の重鎮たちが中心となり開催。老舗のチカラをどう地域に活かすのか。観光協会副会長も務める25代目の手腕に期待が寄せられている。


内田
外郎藤右衛門を襲名されたということで、心持ちというものが変わって、お名前自体も本名も変わられているということで、どんな心境でいらっしゃるのですか?

外郎
本名が「武」から「藤右衛門」になりまして、皆さんから藤右衛門と言われるとまだまだちょっと恥ずかしいところはあるのですけども、歴代当主が名乗ってきた名前を頂きましたので、その名に恥じないように一層努力をしなければいけないと思います。ただ私は私なので。私の信条は「今自分ができることを懸命にやる」だけです。私が「25番目に家を預かっている者です」という言い方を敢えてするのは、これは私のものじゃなくて、ただ代々預かってきたものを私が今預かっているもので、それを次の代にまた渡していく。そういう気持ちがあるから、「預かっている者です」って言い方をするのかもしれないですね。一人の個人が650年の歴史を背負うなんて思ったら疲れますから、無理ですよ。そういう過去の歴史にあぐらをかくのではなくて、過去の歴史や文化をうまく大切にしながら、今自分たちがそれを活用してどうやって皆さんと共存共栄できるかということを考えていけたら良いなと。

内田
歴史、伝統をちゃんと受け継いでいる部分と、実はイノベーションしているという風におっしゃった部分にすごく興味があって、ご自身が社長というお立場になられて、外郎さん自身が始められたこと、どんなところをやってきたのか教えていただきたいのですけども。

外郎
会社の中では、一つは風通しを良くしたというのはありますかね。私も企業で長らく働いたこともありましたので、全体の情報共有をもっとちゃんとすることも大事と思って。お客様の声をきちっと作っている現場に伝えないといけなかったり、もしくは作る側がお客様の動向を知らないで作るわけには当然いきませんので、情報交換をしっかりできるようにしたり。隣に駐車場が確保できましたので、この地域でイベントがある時には皆さんが楽しくお祭りができるようにしたり。後はせっかく和の会社なので社員にも和の文化を楽しんでもらいたいと思ったので、和太鼓部を作りました。和太鼓を買い揃えて、そういう和の文化に触れてもらう。もしくは太鼓なので少しストレス発散にもなるかなと。気持ち良いですよね、太鼓を叩くと。


昨年11月に行われた外郎藤右衞門襲名披露祝賀会は、初めて公の場で行われた。新しい25代目当主は、地元小田原とのさらなる連携を強化。ともに発展を目指す姿勢を打ち出した。この襲名披露祝賀会は、小田原経済界の重鎮たちが中心となり開催。老舗のチカラをどう地域に活かすのか。観光協会副会長も務める25代目の手腕に期待が寄せられている。


内田
作っているものが非常に普遍的なもの、変わらないということだからこそ、社員に対して新しい取り組み、モチベーションを上げていくというところには工夫があるのですか?

外郎
そうですね。ずっと同じことをし続けながら、内面では進化をしてもらっていて。でもそれをなかなか見せられない、見えないところで頑張っていただいている。でもこれは元々日本人がやってきた「陰徳を積む」という基本的な考え方だと僕は思っていますので。

内田
見えないところで一生懸命努力をすると。他に「絶対にこれだけはやらない」と決めていることはあるのですか?

外郎
工場を別のところに建設して、大量に人を投入して、機械化して、ういろうじゃなくても他のものをたくさん作って店頭に並べてやるという、そういうことはやらない。人が心を込めて作っているものが大事だと思うので、そのためには、ただ機械がやっていることを見ているだけでは心は入らないんですよ。今、実際に車を運転していてもカーナビが「右に曲がれ」って言って右に曲がっている時代ですからね。切符を買う時も、お金の投入が遅れると「お金を投入してください」って言われたら黙ってお金入れるじゃないですか。でも窓口で「お客さん、お金早く出してください」って言われたら怒りますよね。喧嘩になりますよね。

内田
そうですね。

外郎
「お客さん、早くお金出してくれないと」って窓口がやったらもう駄目でしょ?ところが機械が「投入金が不足しています」とか「お金を入れてください」って言ったらみんな黙って。おかしいんです。我々生身の体はアナログなので、アナログを無視できないんですよ。

内田
日本の良きものであるとか、自然なもの、そもそもこういうものだとう原点が、このういろうの中にずっと残っていってくれるとすごく良いなと。

外郎
ありがとうございます。その言葉を大事にして、我々も頑張りたいなと思います。

内田
ありがとうございます。

外郎
優等生過ぎますか?もうちょっとドロ臭く言った方がいいですかね?

内田
いえいえ。



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1月15日放送分
2018年 神奈川経済のトピックと展望

浜銀総合研究所の新瀧健一氏を迎え、2018年の神奈川経済の展望について聞く。景況感も26年ぶりにプラスになるなど、好調が伝えられた2017年。一方で人手不足や人口減少など多くの課題もあった。2020年以降に向けてどのような取り組みが必要なのか。これからの10年、20年につながる「今年」を考える。



内田
新瀧さん今年もよろしくお願いいたします。2017年の神奈川経済を振り返って、どんな1年でしたか?

新瀧
去年はトランプ大統領の就任ということで、かなり不透明感が強い形でスタートしたんですが、前半は中国向けの輸出が非常に増えて、加えて神奈川での乗用車販売が生産に波及するような形で、年度の初めはかなり良いスタートを切ったという風に思っています。ただ夏場に天候が不順、台風関係ですね、特に夏の海関係のビジネス、7月は良かったんですが8月はもう波が高くて遊泳禁止というような形でほぼ開店休業状態。秋の台風も週末に二つ来ましたので、大きなイベント、例えば横浜マラソンなんかも中止になりました。この辺りが個人消費を下押しして、ちょっと横ばい状態になったんですが、年の終わりぐらいにまた個人消費が盛り返すような形で、良い終わり方をしたんじゃないかなという見方をしています。

内田
なるほど、天候悪かったですね。

新瀧
そういう意味では製造業以外のところはちょっと回復が一服したような印象があるんですが、逆に製造業の方は昨年振り返ると自動車と半導体、この2本柱が非常に好調だったので、製造業を中心に去年の県内景気は拡大したんじゃないかという風に見ています。

内田
2018年の展望ですけども、今年はどんな経済になっていくのか。

新瀧
2017年と同じですけども、悪い部分がどんどん少なくなってくる、こんな1年になるんじゃないかなという風に見ています。例えば当社が昨年12月に実施したアンケート調査によると、景気が現在「悪い」と判断されている社長さんが2割弱。リーマンショックの直後には7割の企業が「悪い」と判断していましたので、悪い企業は劇的に減っています。逆に「良い」と答える企業が2割強あったので、良いから悪いを引いた、これを業況判断DIというんですが、これが26年ぶりにプラス、つまり中堅中小企業に多数決を採ったならば、「良い」という企業の社長さんの方が多いという状況になっているんですね。

内田
26年ぶり?これはなかなかなものですね。中小企業も悪い話ばかりがずっと続いてきました。もう廃業だ、倒産だという、そういうところは減ってきていると思っていいわけですか?

新瀧
今が「悪い」と判断されている社長さんは着実に減っている、経済の中で厳しい部分は減少していると。

内田
底上げがしっかりとされてきたという?

新瀧
そうですね。逆に「良い」という企業さんの割合があまり増えないので、良い部分が拡大しているという印象がない。その辺りが緩やかな景気拡大に留まっている要因じゃないかなという風に見ています。

内田
中小企業の経営者はずっと厳しい経済の中で淘汰もされて、今生き残っている。この「悪くない」と答えている中小企業というのは一体どういう業態と言いますか、経営努力があって今に至っているのでしょうか。

新瀧
個別の企業で様々ですけども、やはりリーマンショック後の非常に厳しい状態を勝ち抜いてきた企業が今存在している、更に細かい言い方をすると、リーマンショック後は暇だったわけですよね。

内田
仕事がなくなっちゃった。

新瀧
その時期に研究開発ですとか新商品の開発に取り組んだ企業が今、その果実を自分の口に入れ始めている、そんなことが言えるような印象を持っています。環境という点では自動車と半導体、この大きな流れが上向いたこと。「IoT」ですとか「AI」というヒットしているワードがありますけども、半導体が自動車に搭載される件数が爆発的に増えているとか、そういう大きな外部環境が追い風になって実を結んでいる。そういう面も見逃せないと思いますね。

内田
この半導体ブーム、今年もしっかり続いていくんでしょうか?

新瀧
更に加速するという風に思います。何故かというとやはり便利なものはみんなが欲しがる、それは間違いないことだと思うんですね。そういう意味では半導体に更にAIというソフトがビルドインされてもっと便利になる、そういう世の中はみんなが望んでいることなので、良い商品ができれば確実にビジネスに繋がるチャンスをどんな企業も持っている、そんな時代がやってくるんじゃないかなっていう風に思います。

内田
過去ですと半導体というのは「変動体」なんて言われて、非常に山谷の差が激しくて、ある程度読み切れるようなものでもありました。これから半導体のサイクルはまた違う次元に入ってくるということですか?

新瀧
昔の半導体で言うと極端な話、パソコンの売り上げに連動するみたいなところがありましたので、搭載される製品が様々なものになれば波自体も小さくなって、全体としては上昇トレンドの中に乗れる。こういうような形になるんじゃないかなという風に思っています。

内田
パソコンがバッと売れたら山が出来て、パタッと売れなくなって…という需要の山谷がもっと平準化されてきて、家電なり車なり、携帯電話はもちろんですけども、もっと思いもよらないものに半導体がどんどん使われていく。世の中大きく変わっていきますね。

新瀧
30年、50年前と比べると、平たい言い方をすると、もうドラえもんの世界が実現しているのかなと。スマートフォンなんて明らかにそうですよね。テレビが見られて、電話もできて、地図もナビゲートしてくれるみたいな。

内田
そうですね、話しかければ何でも答えてくれるし。

新瀧
これ20年前は「あったらいいな」っていう商品の一つだったと思うんですが、もう現実ですよね。

内田
これまでにない商品が生まれてくる需要とか消費というものもどんどん促進されていくという良い流れが出来るのでしょうか?

新瀧
やはりメーカーの開発者が、「こうなったらいいな」という気持ちを忘れなかったからこそ、実現している世の中なんじゃないかなと思います。


神奈川県は全国トップクラスの速さで高齢化が進んでいる。昨年から団塊の世代が70歳に到達、2020年まで毎年14万人以上が70歳を超えていく。同時に15歳以上の労働力人口は減少。さらに人口は今年2018年をピークに減少と予測されるなど、深刻な人手不足はより具体的なものに。企業はどう対応していくのか。


内田
日本が抱えている大きな問題が人手不足とか人口減少。ここはどういう風に解決していくのか?私の中では解決の目処みたいなものが見えないのですけど。

新瀧
若い人の不足というのは、例えば今年2018年は「大学の2018年問題」という風に言われていました、つまり18歳人口がこの先、今年よりも先にいくと激減してくる。

内田
もう「緩やか」じゃなくて「激減」なんですね?

新瀧
2018年に大学に入るということは、四年制大学卒を前提とすると、2022年になると新卒は容易に採れない時代がやってくる。そういう意味では「人の供給」という点では解決し難い問題ですね。今、仮に赤ちゃんの数が増え始めたとしても、20歳になるのは20年後ですから、この先20年はその少ない人数でやっていかなきゃいけない時代に突入しているということですね。

内田
突入すると。どうしたらいいんでしょう?

新瀧
やはり少ない人数でやっていける体制を整えていく、言い換えると生産性を上げていくということになると思います。経済学の成長理論の中で経済の成長率は、労働力人口の増え方を1つ目、2つ目は資本の増え方、3つ目が技術革新に分けられると言われています。過去日本の成長率を調べてみると、人口の部分というのはそれほど大きくないんですね。日本の経済成長を支えてきたのは、生産性の向上、技術革新の部分ですので、そこの努力を怠らなければ、人が減るような時代がやってきても十分に日本の経済は成長できる。

内田
高度経済成長を支えたのは潤沢な労働力、そういう人口×1人あたりのGDPだという風に思いがちですけれども、単に労働人口じゃないんですね。

新瀧
みんながそう思うとそうなっちゃうという側面があるのですが、技術革新を弛まずに努力していけば経済は成長できるんだという風にみんなが思えばその通りになると思います。日本の場合、省力化投資っていうのは得意分野の一つですから、そういったところを更に磨きあげていけば生産性が高まって経済成長を維持できる時代が続くという風に期待しています。

内田
例えば人がいなくても店舗が回る無人化であるとか、ロボット化であるとかAI化であるとか。

新瀧
製造業の場合には省力化投資っていろいろな企業さんがかなり進めていますけども、本当に難しいのは非製造業の部分。実際に企業の社長さんに聞くと、人手不足対策で「人手をいかに確保しようか」というような段階にいらっしゃる社長さんが非常に多いような印象があります。それはそれで正しいのですけども、逆に市内に数店舗店を構えているような飲食店の場合には、忙しい時期はしょうがないけども、週末で人が来ないような時には、一番お客が集まる店舗に従業員を集めて、そうじゃないお店はクローズしてしまうというような形で、儲かる、お金を稼げるような分野に人を移動させる。そういう形で平均として数値を上げていくような取り組みをされているようなところが出始めています。

内田
面白いですね。

新瀧
特にこの年末年始、そういう目でお店を見ていると結構閉められているお店が多かったような印象あります。あと去年ぐらいからオフィス街の飲食店は土日休んでいるようなところも増えているようなので、そういう流れが広がっていけば、少人数で経済活動を維持してくというのは十分実現できる話だという風に理解しています。

内田
一つ伺いたいのは働き方改革です。とにかく時短。残業代を減らしていくんだ、早く家に帰りなさい、みたいな流れが激烈に起こってきた。そうなると単に労働時間が減るだけでは日本経済の成長は無いはずで、いかにそこで生産性を上げるかというところですけども、実際に生産性が上がったというところはまだ具体的なモデルとして出てきていない?

新瀧
濃さで見るとあるかもしれないのですが、我々みたいに統計を見ている限りはそれほど劇的な変化はまだ見られません。統計で働き方改革を検証するとですね、週60時間以上働く長時間労働者は明らかに減っています。逆に去年の労働時間を調べると一昨年に比べて増えています。やはり景気が良くなっているので残業時間は増えている。ただ過去の景気拡大の時の程度を調べると、去年の程度だったらもっと労働時間が増えてもいいのに、やや抑え目かなというような形は統計から確認できます。

内田
つまり仕事の業務の効率化が進んでいるということ?

新瀧
そうあって欲しいと思いますね。ただサービス残業が減っているだけというような見方をする人もいらっしゃるので、統計面で生産性の向上まで確認できるのは先のことなのかなと思います。早く帰って自己啓発をしてよりレベルが高い仕事をしようということもあるんですが、特に自己啓発のところは1年や2年で成果がでるようなものじゃありませんので、やっぱり働き方改革の成果というのは長い目で、「そうだったね」っていうことを確認するしかないと思います。

内田
日本ではどんどん労働人口は減っていく、業務の改善、効率化でなんとかしていく。あと一つ、外国人労働者の受け入れということをもうちょっとちゃんと考えていかなければいけないんじゃないかという風に思うんですけども、ここはどうですか?

新瀧
その通りだと思いますね。今言ったような流れでいけばハッピーなことはハッピーなんですけども、やはり働き手が少なくて、会社が成り立たなくて廃業してしまう、というところが増えてしまうのは経済にとって絶対にマイナスですから、そこを補うために外国人の方の手を借りるっていうのはもっと選択肢として広がっていいという風に感じています。

内田
ここは今何がネックになっているところですか?

新瀧
実際に神奈川の企業を見ていると、外国人の方が増えている企業さんは多いですよね。特に飲食店ですとか小売店、コンビニエンスストアでは外国人の方が増えています。使う側が一番問題だと思うのですけども、外国人の方を雇っていくと、使う人が慣れてくる、外国人に対するアレルギーは低くなってくると思います。

内田
今、人繰りが深刻なのが介護の現場。ここはどうなっていきますか?

新瀧
一部には外国人というような話もありますけども、介護の場合にはやはり肉体労働的な側面が強いので、ここはロボットの力を借りる。特にベッドからの移動。その辺りはロボットの力が必要だと思いますし。あとは見守りですね。それもAIを駆使したような新しい技術が出てくればかなり介護が効率化すると思いますし、昨年はケアプランをAIで作る取り組みも一部で始まっている。そういう動きが広まると介護事業の生産性も上がってく可能性がありますね。


2020年前後へ向け、みなとみらい21地区周辺の再開発が加速。2019年、2020年に完成が予定されている施設の一部には、大規模なコンサートホールや、大企業の本社移転、複合施設やホテル建設などが予定されている。開発の影響はどう好循環をもたらすのか。


内田
みなとみらいの再開発に注目していて、どんどん建物が建って埋まってきた。今年の目玉は何ですか?

新瀧
今年完成するものというのは、残念ながら大どころはないですね。今は2020年に向けて大きく工事中というようなイメージです。

内田
どんなものができてくる?

新瀧
やはり本社機能、本来みなとみらいを開発するために誘致したかった本社が次々と移ってくる。京急さんですとかそういったところが目玉の一つ。経済的に言うと、オフィス人口が今後も激増する。そうすると打ち合わせとかで人もやってきますし、経済は活性化すると思います。あと去年明らかになった計画の中で非常に特徴的だったのはコンサートホールが次々とできる。個人的にはホテルの計画も、一方でいっぱいあるので、ホテルがこんなに埋まっていくのか、お客さんが増えるのか不安面もあったのですけども、コンサートの町という新しい特色ができるとするならば、非常にアピールしやすい。みなとみらいを世界的な目で見ると羽田空港から近い。そうすると大人数を動員する外国人タレントのコンサートも開きやすい。そういう側面もあるという風に期待しています。宿泊施設と大規模なコンサートホールが併設しているという意味では、コンサートをやる側からするとかなり安心感がある町になるんじゃないかなという風に思います。

内田
企業で面白そうだと思うところはどこかありますか?

新瀧
注目しているのは来年オープンする資生堂の研究開発施設ですね。1階部分は「町の人、いらっしゃい」みたいな施設になると聞いています。特に資生堂さんは外国人に非常に信頼性が高い化粧品メーカーなので、外国人が1階のところに押し寄せてくれるかもしれない。

内田
それ面白いですね、研究所が観光地にもなる。観光という意味で言うと、横浜は知名度の割に観光地として何かスルーされてしまう。ここは是非テコ入れしていただきたいと思うんですけど、新瀧さんはどう思います?

新瀧
やはり東京に隣接しているマイナス面、東京に宿泊して、横浜中華街とかに寄って、泊まるのは箱根を越えた静岡、みたいなパターンがある。それをなくすためにはやはり泊まる場所が充実する。ここにも一泊してみようかというようなホテルが2020年に向けて多くできるのはマイナス面を払拭するチャンスだと思っています。

内田
2018年ですけども、新瀧さんが他に期待する、神奈川経済に期待するポイントはありますか?

新瀧
去年ちょっと元気がなかった個人消費がいかに元気になってくれるか、この点がポイントだと思っています。今年は冬季オリンピックがあり、サッカーのワールドカップがあり、活躍次第ではかなり消費マインドが上がるコンテンツがあります。神奈川でのワールドカップというとセーリングとサーフィンが江の島と横須賀で開かれるという、神奈川ならではの面もある。それ以外には去年活躍されたベイスターズ。ここも是非もう一声きて欲しいと思っています。昨年11月の応援ありがとうセールで、横浜の百貨店の売り上げを仔細に見てみると経済効果があったような数字もあります。優勝ということになればかなり横浜の消費を盛り上げてくれるんじゃないかなと思っています。

内田
スポーツ効果というものも侮れないと?

新瀧
サッカーの川崎フロンターレはJ1で優勝されましたので、優勝関連セールが億を超えたというような話で聞いています。

内田
やはり地域のスポーツが強くなると、当然経済的にはプラスになると?

新瀧
「応援したい」ということでお財布の紐も緩む人が多いという印象はありますね。

内田
消費がもっと盛り上がると良い経済の…

新瀧
消費も元気になれば全体としてもっと底上げして、良い企業さんが増えるんじゃないかなと思います。

内田
企業が儲かってくれると、お給料も上がって、従業員に還元されて、更に経済が回っていく…という状況を作りたいですよね。

新瀧
そうですね。少人数で売り上げを拡大していくというのは生産性の向上、その生産性の向上が賃金の上昇に繋がって個人消費が拡大していくというのが、今後5年10年の中で一番望ましい、ベストシナリオだと思うので、そういうような「とば口」が今年見え始めると良いのかなという風に感じています。



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